<い> 石
朝起きると、よい天気だった。窓を開けると東京タワーの後ろにうっすらと富士山が見えた。新聞を取りにいったら玄関すぐ前の小道に石が生えていた。生えていたというのはおかしいが、形がタケノコのようだったから思わずそう思ってしまったのだ。
「ついてないな」
オレはローンで買った一戸建住宅を振り返ると小声で言った。今日はこの家を買いたいという人が訪問する日だった。朝食のパンをかじりながら妻に石のことを告げると、彼女は少し目を閉じていたが、気を取り戻してこういった。
「じゃあ、斎藤さんに頼めばいいじゃない」
斎藤さんとは近所の友人で、この街で「なんでも屋」を開業していた。よく週末に駅前の雀荘で遊んだりしていた。
朝食のあと、斎藤さんに電話するとすぐに快諾してくれた。午後3時に来るという。家を見に来る人との約束は午後5時だったから、それまでには間に合いそうだ。
大きな車のエンジン音が聞こえた。玄関を出ると十トントラックと思われる車が細い道をゆっくりと近づいてきていた。手を振ってみるとその車からクラクションの音が聞こえた。やっぱり斎藤さんだ。
方法は簡単だった。トラックとロープを結び、石とロープを結び、トラックを走らせるだけだった。斎藤さんはヨットで見るような複雑な結び目を二つつくると、ゆっくりとトラックを動かし始めた。
トラックはゆっくりと前へ進んだ。しかしそのとき、遠くの方で人の叫ぶ声がきこえた。しかしその声は運転をしている斎藤さんには聞こえなかった。オレはその叫び声が少し気になったが、それでもその声がロープを引っ張ることを中断する理由にはならなかった。だいぶ傾いてきた。あと少しで石が倒れようとしていた。
「斎藤さん。もう少しです」
そう叫ぶと斎藤さんはクラクションを鳴らした。どうやら一気に引き抜くようだった。引き抜いた瞬間、大きな音とともに地面が揺れた。しかしそれはその石のせいではなかった。
突然、妻が叫んだ。
「あなた、あっち」
妻の指さす方角を見た。すぐにはわからなかったが、それでも十秒後にはその理由がわかった。東京タワーが消えていた。東京タワーが倒れたのだ。石を引き抜いたら、東京タワーが倒れた。その因果関係は今もって謎である。はっきりしていることは、これでまた我が家の評価額が下がるということだった。
■終■


「ついてないな」
オレはローンで買った一戸建住宅を振り返ると小声で言った。今日はこの家を買いたいという人が訪問する日だった。朝食のパンをかじりながら妻に石のことを告げると、彼女は少し目を閉じていたが、気を取り戻してこういった。
「じゃあ、斎藤さんに頼めばいいじゃない」
斎藤さんとは近所の友人で、この街で「なんでも屋」を開業していた。よく週末に駅前の雀荘で遊んだりしていた。
朝食のあと、斎藤さんに電話するとすぐに快諾してくれた。午後3時に来るという。家を見に来る人との約束は午後5時だったから、それまでには間に合いそうだ。
大きな車のエンジン音が聞こえた。玄関を出ると十トントラックと思われる車が細い道をゆっくりと近づいてきていた。手を振ってみるとその車からクラクションの音が聞こえた。やっぱり斎藤さんだ。
方法は簡単だった。トラックとロープを結び、石とロープを結び、トラックを走らせるだけだった。斎藤さんはヨットで見るような複雑な結び目を二つつくると、ゆっくりとトラックを動かし始めた。
トラックはゆっくりと前へ進んだ。しかしそのとき、遠くの方で人の叫ぶ声がきこえた。しかしその声は運転をしている斎藤さんには聞こえなかった。オレはその叫び声が少し気になったが、それでもその声がロープを引っ張ることを中断する理由にはならなかった。だいぶ傾いてきた。あと少しで石が倒れようとしていた。
「斎藤さん。もう少しです」
そう叫ぶと斎藤さんはクラクションを鳴らした。どうやら一気に引き抜くようだった。引き抜いた瞬間、大きな音とともに地面が揺れた。しかしそれはその石のせいではなかった。
突然、妻が叫んだ。
「あなた、あっち」
妻の指さす方角を見た。すぐにはわからなかったが、それでも十秒後にはその理由がわかった。東京タワーが消えていた。東京タワーが倒れたのだ。石を引き抜いたら、東京タワーが倒れた。その因果関係は今もって謎である。はっきりしていることは、これでまた我が家の評価額が下がるということだった。
■終■



